コラム
成年後見人による使い込みが発覚したら? 対処法と財産を取り戻す方法を弁護士が解説
「親の後見人になった兄が、親の財産を勝手に使い込んでいるようだ」「成年後見人に選ばれた叔父が、祖母の口座から多額のお金を引き出していた」——成年後見制度は高齢者や障がいのある方の財産を守るための制度ですが、皮肉なことに、その後見人自身による財産の横領・使い込みが社会問題になっています。
最高裁判所の統計によれば、成年後見制度における財産被害は年間数十億円規模に上るとも言われています。その多くは親族が後見人に選ばれているケースで、「まさか家族が」という状況で発覚することが少なくありません。
本記事では、成年後見人とは何か・使い込みが起きやすい背景と典型的な手口・発覚した場合の対処法・財産を取り戻す法的手段・相続発生後に使い込みが発覚した場合の対応まで、奈良市の高の原法律事務所の弁護士が詳しく解説します。
① 成年後見制度とは——後見人の権限と義務
成年後見制度とは、認知症・知的障がい・精神障がいなどによって判断能力が十分でない方(被後見人)の財産管理や身上監護を支援するために、法律上の代理人(成年後見人)を選任する制度です。家庭裁判所が後見人を選任し、後見人は被後見人の財産を管理する権限を持ちます。
成年後見人の主な権限と義務
- 被後見人の預貯金・不動産・株式などすべての財産を管理する権限
- 被後見人に代わって契約・法律行為を行う権限(代理権)
- 被後見人の財産を適切に管理し、本人の生活・医療・介護のために使う義務
- 家庭裁判所に対して定期的に財産管理の報告(後見事務報告)を行う義務
- 被後見人の財産を私的に流用することは厳しく禁止されている
後見人には親族がなる場合(親族後見人)と、弁護士・司法書士・社会福祉士などの専門家がなる場合(専門職後見人)があります。専門職後見人は厳格な監督のもとで活動しますが、親族後見人は監督が手薄になりやすく、使い込みが発生しやすい傾向があります。
② 使い込みが起きやすい背景と典型的な手口
成年後見人による使い込みは、なぜ発生するのでしょうか。その背景と典型的な手口を理解しておくことで、早期発見につながります。
使い込みが起きやすい背景
- 親族が後見人になると「家族の財産を管理している」という感覚から流用のハードルが下がりやすい
- 家庭裁判所への報告義務があるものの、日常的な監視体制は限られている
- 被後見人(本人)が認知症などで自分で気づいて訴えることができない
- 「いずれ相続で自分のものになる財産だから」という身勝手な正当化
- 経済的に困窮した後見人が「一時的に借りる」つもりで始め、歯止めが利かなくなる
典型的な使い込みの手口
- 被後見人名義の口座から現金を頻繁に引き出して私的に流用する
- 被後見人の不動産を本人の意思確認なしに売却し、売却代金を着服する
- 後見人自身の借金返済・生活費・娯楽費に被後見人の財産を充てる
- 被後見人に対する架空の「生活費」「医療費」名目で支出を水増しする
- 被後見人に無断で保険を解約し、返戻金を着服する
使い込みのサイン:以下に当てはまる場合は早めに調査を検討してください。
- 口座残高が急激に減っているが、後見人から説明がない
- 後見事務報告が家庭裁判所に提出されていない・内容が不自然
- 設入居費・医療費以外の高額な出金が頻繁にある
- 後見人に財産の状況を質問しても明確な回答が得られない
③ 使い込みが発覚したときの対処法——まず証拠を押さえる
成年後見人による使い込みが疑われる場合、感情的に動く前に証拠を収集することが重要です。証拠がなければ、後から取り戻すための法的手続きを進めることが難しくなります。
収集すべき証拠
- 被後見人名義の通帳・預金口座の取引明細(金融機関に請求できる)
- 不動産の登記簿謄本(法務局で取得。名義変更・抵当権設定がないか確認)
- 家庭裁判所に提出された後見事務報告書・財産目録の写し(閲覧請求が可能)
- 施設・病院の請求書・領収書(実際の支出と後見人の報告との整合性を確認)
- 後見人との連絡記録(メール・LINE・手紙など)
家庭裁判所への申立て・後見監督人の選任
成年後見が開始している場合、家庭裁判所には監督権限があります。「後見監督人の選任申立て」を行うことで、裁判所が弁護士や司法書士などを後見監督人として選任し、後見人の業務を監視させることができます。後見監督人が選任されると、後見人は監督人の同意なしに重要な財産処分を行えなくなります。
後見人の解任を求める申立て
使い込みの事実が具体的に疑われる場合、家庭裁判所に「後見人解任の申立て」を行うことができます。裁判所が解任を認めた場合、新たな後見人(専門職後見人)が選任されます。解任申立ては親族など利害関係者が行うことができます。
④ 財産を取り戻す法的手段
使い込みが確認できた場合、損害賠償請求・不当利得返還請求などの法的手段で財産を取り戻すことができます。
手段①:損害賠償請求(不法行為に基づく)
後見人が被後見人の財産を横領・流用した行為は不法行為(民法709条)にあたります。被後見人本人(またはその代理人)は、使い込んだ後見人に対して損害賠償を請求することができます。この請求権は被後見人が生きている間は被後見人本人に、死亡後は相続人が引き継ぎます。
手段②:不当利得返還請求
正当な権限なく被後見人の財産を保有・使用した後見人に対して、不当利得返還請求(民法703・704条)を行うことができます。損害賠償請求と並行して請求することも可能です。
手段③:刑事告訴(業務上横領・詐欺)
後見人による財産の横領は「業務上横領罪(刑法253条)」に該当する可能性があります。警察に告訴することで刑事事件として捜査が行われ、有罪になれば10年以下の懲役という重い刑事罰が科されます。民事上の請求と並行して刑事告訴を行うことが、相手への圧力として有効になる場合があります。
| 法的手段 | 内容と効果 |
| 損害賠償請求 | 不法行為に基づく。使い込んだ金額+慰謝料を請求できる場合も。 |
| 不当利得返還請求 | 正当な権限なく保有する財産の返還を求める。損害賠償と並行して請求可能。 |
| 業務上横領罪で刑事告訴 | 警察への告訴。有罪で10年以下の懲役。民事請求と並行して行うことが有効。 |
| 仮差押え | 相手が財産を隠したり処分したりする前に、裁判所を通じて財産を保全する手続き。 |
注意:使い込みの証拠収集と法的手続きは、時間との勝負です。
後見人が財産を他に移したり・消費したりしてしまうと、取り戻せる金額が減ります。
「おかしいな」と思ったら、できるだけ早く弁護士に相談することが重要です。
⑤ 相続発生後に使い込みが発覚した場合
被後見人(親など)が亡くなった後に、成年後見期間中の財産の使い込みに気づくケースも多くあります。この場合も、相続人として法的に取り戻すことができます。
相続人として損害賠償・不当利得返還を請求できる
被後見人の死亡により、使い込まれた財産に対する損害賠償請求権・不当利得返還請求権は相続人に引き継がれます。つまり、被後見人が亡くなった後でも、後見期間中の使い込みについて請求することが可能です。
遺産分割の場面での主張
使い込みを行った後見人が相続人でもある場合(例:親の後見人になった長男が親の死後に他の相続人と遺産を分ける場面)、使い込んだ金額を遺産分割の際に「特別受益」または「不当利得・損害賠償」として主張することができます。他の相続人が「使い込んだ分を差し引いた形で分割してほしい」と要求できる余地があります。
時効に注意
不法行為に基づく損害賠償請求権は「損害および加害者を知った時から3年」または「不法行為の時から20年」で時効になります。使い込みを知ってから時間が経つほど請求できる範囲が狭くなることがあるため、疑いが生じたら早めに弁護士に相談することをお勧めします。
⑥ 使い込みを防ぐための対策
成年後見人による使い込みを未然に防ぐためには、制度の活用と日常的なチェックが重要です。
対策①:後見監督人の選任を最初から求める
成年後見の申立ての際に、後見監督人の選任も合わせて申し立てることができます。後見監督人(弁護士・司法書士などの専門職)が就くことで、後見人の行動に対する外部からのチェックが機能します。特に、財産が多い・親族間の関係が複雑・後見人候補者に問題行動の懸念があるケースでは、最初から監督人を付けることが有効です。
対策②:専門職後見人を選ぶ
親族後見人ではなく、弁護士・司法書士・社会福祉士などの専門職後見人を選任することで、財産管理の透明性が高まります。専門職後見人は報酬が発生しますが、使い込みのリスクと比較すると安価な保険と言えます。
対策③:定期的な口座残高の確認
後見が開始した後も、他の家族が定期的に被後見人の口座残高・後見事務報告の内容を確認することで、異常な出金を早期に発見できます。家庭裁判所に後見事務報告書の閲覧を申請することも可能です。
⑦ よくある質問
Q. 後見人が使い込んでいると疑っているが、証拠がありません。弁護士に相談できますか?
A. はい、証拠が不十分な段階からご相談いただけます。弁護士に相談することで、どのような証拠が有効か・どこにアクセスして調べられるか(金融機関への照会・家庭裁判所の記録閲覧など)を具体的にアドバイスしてもらえます。証拠収集の戦略を立ててから動き始めることが、後の手続きをスムーズにします。
Q. 後見人である兄が財産を使い込んでいました。兄を後見人から外して取り戻せますか?
A. 使い込みの事実が認められれば、家庭裁判所への後見人解任申立てが可能です。解任が認められると新たな後見人(多くの場合は専門職後見人)が選任されます。並行して、使い込んだ金額について損害賠償請求・不当利得返還請求を行うことができます。刑事告訴(業務上横領)も選択肢のひとつです。まずは弁護士に証拠を持参して相談してください。
Q. 父が亡くなった後で、後見人だった叔父が父の財産を使い込んでいたことがわかりました。今からでも取り戻せますか?
A. はい、取り戻せる可能性があります。被後見人の死亡後も、後見期間中の使い込みに対する損害賠償請求権・不当利得返還請求権は相続人に引き継がれます。ただし、時効がありますので(不法行為を知った時から3年など)、発覚したら早めに動くことが重要です。弁護士に相談して時効の起算点を確認しながら手続きを進めてください。
Q. 後見人に選ばれたばかりですが、他の親族から「使い込むのでは」と疑われています。どうすれば信頼してもらえますか?
A. 疑いを招かないためには「透明性」が最も重要です。通帳の写しや領収書を他の相続人にも定期的に共有する・全ての支出について記録を残す・家庭裁判所への報告を丁寧に行うといった姿勢が信頼につながります。また、自ら後見監督人の選任を申し出ることも、第三者によるチェック体制の整備として信頼性を高める有効な方法です。
まとめ
成年後見人による使い込みは、高齢化社会において増加している深刻な問題です。本記事の要点を振り返ります。
- 成年後見人は被後見人の財産を本人のために管理する義務があり、私的流用は業務上横領罪にあたりうる
- 使い込みは親族後見人によるケースで発生しやすい。口座残高の急減・説明のない出金が主なサイン
- 発覚したらまず証拠(通帳明細・後見事務報告書・領収書)を収集する
- 家庭裁判所への後見監督人選任申立て・後見人解任申立てが有効な対処手段
- 損害賠償請求・不当利得返還請求・業務上横領での刑事告訴で財産を取り戻す法的手段がある
- 被後見人の死亡後でも相続人が請求できる。ただし時効があるため早めの行動が不可欠
- 未然防止には後見監督人の選任・専門職後見人の選択・定期的な口座確認が有効
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