コラム
相続人の一人と連絡が取れない——遺産分割をどう進めるか解説
遺産分割の協議を始めようとしたところ、相続人の一人と連絡が取れないという事態が生じることがあります。長年交流のなかった兄弟姉妹、疎遠になっていた親族といった場面です。
遺産分割協議は相続人全員の参加が必要とされるため、一人でも欠けた状態では成立しません。しかし、連絡が取れないからといって手続きを進められないわけではなく、状況に応じた方法が用意されています。
この記事では、住所を調べる方法、連絡しても応答がない場合の進め方、所在そのものが不明な場合の対応について整理します。
① 全員の参加が必要とされる理由
民法は、共同相続人は協議で遺産の分割をすることができると定めています。この協議には、相続人の全員が参加しなければなりません。
一人でも欠けた状態で作成された遺産分割協議書は無効となります。不動産の登記や預貯金の解約といった手続きにおいても、全員の署名と実印による押印、印鑑登録証明書の提出が求められます。
まず相続人を確定させる
連絡が取れない相続人がいるかどうか以前に、そもそも誰が相続人であるかを確定させる必要があります。
被相続人の出生から死亡までの戸籍を連続して取得することで、子の有無を確認します。認知された子や、前婚の際の子が判明することもあります。
この過程で、これまで存在を知らなかった相続人が明らかになる場合もあります。
戸籍の収集に時間がかかることもある
被相続人が転籍を繰り返している場合、複数の市区町村から戸籍を取り寄せることになります。郵送での請求となる場合、それぞれ数週間を要することもあります。
2024年3月から、一部の市区町村では本籍地以外でもまとめて戸籍を取得できる制度が始まっています。対応状況については、窓口で確認されるとよいでしょう。
戸籍を辿った結果、相続人が十数名に及ぶという事案もあります。代が下っているほど、人数は増える傾向があります。
② 住所を調べる方法
連絡先がわからないという場合、まず住民票上の住所を確認することから始めます。
戸籍の附票
戸籍の附票には、その戸籍に記載されている間の住所の履歴が記録されています。相続人の本籍地の市区町村で取得できます。
相続人であれば、他の相続人の戸籍の附票を取得することができます。相続関係を示す戸籍謄本などを添えて請求することになります。
これにより、現在の住民票上の住所が判明することが多くあります。
郵便による連絡
住所が判明したら、まず手紙を送ることになります。突然の連絡となるため、次のような内容を簡潔に記すことが考えられます。
- 被相続人が亡くなったこと
- 自分が誰であり、どのような関係にあるか
- 遺産の内容の概要
- 話し合いたい旨と、連絡先
配達証明付きの郵便で送ることにより、到達したことを記録に残せます。後に調停を申し立てる際、連絡を試みた経過を示す資料となります。
③ 連絡しても応答がない場合
住所は判明しており、郵便も届いているものの、返事がないという状況です。
遺産分割調停を申し立てる
この場合、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることになります。裁判所から呼出状が送付されるため、個人からの手紙とは異なる受け止め方をされることもあります。
| 項目 | 内容 |
| 申立先 | 相手方のうち一人の住所地を管轄する家庭裁判所 |
| 費用 | 収入印紙1,200円と連絡用の郵便切手 |
| 必要書類 | 戸籍謄本一式、遺産目録、不動産登記事項証明書など |
| 期間 | 事案によるが1年前後を要することが多い |
調停に出頭しない場合
呼出しに応じない相続人がいる場合、話し合いによる解決は困難と判断され、調停は不成立となります。
遺産分割については、調停が不成立となると自動的に審判へ移行します。裁判官が、法定相続分を基礎として分割の方法を定めることになります。
離婚の調停と異なり、あらためて訴訟を提起する必要はありません。この点で、手続きは前に進みやすいといえます。
審判による解決
審判では、相続人が出頭しない場合であっても、裁判所が資料に基づいて判断を下します。
不動産については、誰かが取得して他の相続人に代償金を支払う方法、売却して代金を分ける方法などが検討されます。話し合いによる柔軟な解決はできなくなりますが、手続きとしては完了します。
④ 所在そのものがわからない場合
戸籍の附票を取得しても、記載された住所に居住していないという場合があります。住民票を移さずに転居しているケースです。
現地を確認する
記載された住所を訪ねてみることで、状況が判明することがあります。近隣の方から転居先を聞ける場合もあります。
後に不在者財産管理人の選任などを申し立てる際には、所在が不明であることを示す必要があります。訪問した際の状況を記録しておくことが役立ちます。
不在者財産管理人の選任
従来の住所を去り、容易に戻る見込みのない者については、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てることができます。
選任された管理人が、不在者に代わって遺産分割の協議に加わります。ただし、管理人が分割に同意するには、家庭裁判所の許可が必要です。
不在者財産管理人は、不在者の財産を守る立場にあります。
そのため、法定相続分を下回る内容の分割に同意することは通常ありません。
不在者の取り分を確保したうえで、残りを他の相続人で分けるという形になります。
管理人に関する費用
申立てにあたり、予納金の納付を求められることがあります。管理人の報酬や活動費用に充てられるもので、数十万円程度となることもあります。
不在者に十分な財産があれば、そこから支払われます。不足する場合には、申立人が負担することになります。
⑤ 生死が不明な場合
長期間にわたり生死が確認できないという場合には、失踪宣告という制度があります。
普通失踪
生死が7年間明らかでないときは、家庭裁判所に失踪宣告を申し立てることができます。宣告がなされると、7年の期間が満了した時に死亡したものとみなされます。
死亡とみなされる結果、その者の相続が開始します。その相続人が、遺産分割の当事者となることになります。
特別失踪
震災や船舶の沈没といった危難に遭遇した場合には、危難が去った後1年間生死が不明であれば申立てができます。この場合、危難が去った時に死亡したものとみなされます。
不在者財産管理人との使い分け
| 比較項目 | 不在者財産管理人 | 失踪宣告 |
| 前提 | 所在が不明であること | 生死が7年間不明であること |
| 効果 | 管理人が代わって協議に参加 | 死亡したものとみなされる |
| 期間の要件 | 定めなし | 原則7年 |
| 取り分 | 不在者のために確保される | その者の相続人が取得する |
生死が不明な期間が7年に満たない場合には、失踪宣告の申立てはできません。この場合、不在者財産管理人の選任によって対応することになります。
⑥ 連絡を取る際に配慮したいこと
長く交流のなかった相続人に連絡を取る際には、相手の受け止め方に配慮することで、その後の協議が進みやすくなることがあります。
突然の連絡であることを踏まえる
相手にとっては、面識のない親族から相続の話が届くという状況です。何らかの負担を求められるのではないか、争いに巻き込まれるのではないかという懸念を抱くこともあります。
最初の連絡では、事実を簡潔に伝えることにとどめ、具体的な分割案を示すのは相手の反応を見てからとすることも考えられます。
遺産の内容を明らかにする
どのような財産があるのかを示さないまま署名を求めると、不信感を持たれることがあります。
預貯金の残高や不動産の評価額など、把握している範囲で情報を共有することで、話し合いが進む場合があります。
返答の期限を一方的に区切らない
相手にも検討の時間が必要です。短い期限を示して回答を迫ると、かえって態度を硬化させることがあります。
もっとも、相続税の申告期限など、こちらに事情がある場合には、その理由を説明したうえで協力を求めることになります。
⑦ 手続きを進めないまま放置した場合
連絡が取れないことを理由に、遺産分割を進めないままにしておくと、いくつかの問題が生じます。
相続人がさらに増える
時間の経過とともに、相続人の誰かが亡くなることがあります。その場合、その方の相続人が新たに加わることになります。
世代が下るほど関係者は増え、面識のない親族との協議が必要となります。合意形成はより困難になります。
相続登記の義務
2024年4月から、不動産を取得した相続人には登記の申請が義務づけられています。取得を知った日から3年以内に手続きを行わない場合、過料の対象となることがあります。
遺産分割がまとまらない場合には、相続人申告登記という簡易な手続きを利用することで、申請義務を履行したものとして扱われます。
預貯金の扱い
遺産分割が終わらない間も、葬儀費用などに充てるため、預貯金の一部を払い戻す制度があります。相続開始時の残高の3分の1に法定相続分を乗じた額まで、単独で引き出すことができます。
同一の金融機関につき150万円が上限とされています。
⑧ よくあるご質問
Q. 連絡が取れない相続人を除いて協議してもよいですか。
A. 一人でも欠けた協議は無効となります。作成した協議書は、不動産の登記や預貯金の解約に使用できません。調停の申立てなど、正規の手続きによって進めることになります。
Q. 相手が遺産はいらないと言っています。
A. その意向があるのであれば、相続分を譲渡する、あるいは何も取得しない旨の遺産分割協議書に署名してもらうことになります。口頭での意向だけでは手続きを進められませんので、書面による確認が必要です。なお、相続放棄は原則として相続の開始を知った時から3か月以内に家庭裁判所で行うものであり、この段階では利用できません。
Q. 海外に居住している相続人がいます。
A. 所在が判明していれば、協議に参加してもらうことは可能です。印鑑登録証明書に代わるものとして、在外公館が発行するサイン証明書を用いることになります。手続きに時間を要しますので、早めに連絡を取っておくことが望まれます。
Q. 不在者財産管理人を選任すると、どのくらい時間がかかりますか。
A. 申立てから選任まで、2か月から3か月程度を要することが一般的です。その後、管理人が遺産の内容を把握し、分割について家庭裁判所の許可を得るまでにも時間がかかります。全体としては半年以上を見込んでおくことになります。
まとめ
相続人と連絡が取れない場合について、本記事で整理した内容を振り返ります。
- 遺産分割協議には相続人全員の参加が必要であり、一人でも欠ければ無効となる
- 住所は戸籍の附票によって確認できる。相続人であれば取得が可能
- 連絡しても応答がない場合には、遺産分割調停を申し立てる
- 調停が不成立となっても審判に移行し、裁判所が分割の方法を定める
- 所在が不明な場合には、不在者財産管理人の選任を申し立てる方法がある
- 生死が7年間不明である場合には、失踪宣告という制度がある
- 放置すると相続人がさらに増え、合意形成が難しくなる
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