コラム
生前贈与と遺留分侵害額請求(平成30年民法改正含む)
生前贈与と遺留分侵害額請求(平成30年民法改正)
父が自宅不動産を長男に生前贈与してしまって、相続時にはわずかの預貯金しかなく、ほとんど遺産がなかった場合は、次男などの他の相続人は遺留分侵害額請求をすることができるでしょうか。
結論として、長男に渡した自宅不動産を遺産に持ち戻した結果、他の相続人の遺留分が侵害されている場合は、生前贈与についても遺留分侵害額請求をすることができます。
ただし、平成30年の民法改正により、相続人への生前贈与のうち持ち戻しがされるのは原則として、相続開始前10年間の生前贈与に限られるようになりました。これは、遺産分割協議の中で、ずいぶん昔の贈与のことでなかなか当事者間の協議がまとまらないことが考慮されたものです。
もっとも、当事者双方(贈与者と受贈者)が他の相続人に損害を与える意図(害意)をもって贈与した場合には、時期を問わず原則としてすべてが持ち戻しの対象となり、遺留分算定の基礎となる財産の価格に算入されます。
これに対し、父が相続人ではない第三者に生前贈与をしていた場合は、原則として相続開始の1年間にしたものに限り、遺留分侵害額請求をすることができます。もっとも、第三者が、この生前贈与で相続人の遺留分を侵害することを知っていれば(害意)、1年以上前の生前贈与であっても、遺留分侵害額請求をすることが可能です。
なお、父が長男に対し、不動産について生前贈与をしても、持ち戻しをしなくてもよいと意思表明をしている場合であっても、遺留分侵害額請求の対象となります。そうしないと、遺言などで多額の贈与をして持ち戻しを免除することによって、基礎財産を減らして、他の相続人の遺留分権を事実上縮小させることが可能になってしまい、遺留分制度の意味がなくなってしまうからです。