コラム
死亡後に預金を引き出すには?口座凍結の仕組みと正しい手続き・注意点を解説
家族が亡くなった後の預金引き出しは、正しい手続きを踏む必要があります。口座凍結の仕組み・凍結前後の引き出しのリスク・仮払制度(150万円上限)の使い方・銀行での相続手続きの流れまで、相続専門の事務所がわかりやすく解説します。
家族が亡くなった直後、葬儀費用や当面の生活費のために「被相続人の預金を引き出せないか」と考える方は少なくありません。しかし、死亡後の預金引き出しには注意すべきルールがあり、方法を誤ると相続人間のトラブルや法的な問題に発展することがあります。
本記事では、死亡後の銀行口座の凍結の仕組み・凍結前と凍結後の引き出しの違い・正式な相続手続きの流れ・緊急時に使える「預貯金の仮払制度」・トラブル事例と対処法まで、相続専門の事務所が詳しく解説します。
死亡後に銀行口座が凍結される仕組み
銀行口座が凍結されるタイミング
被相続人(亡くなった方)の銀行口座は、銀行が名義人の死亡を知った時点で凍結されます。法律上、死亡と同時に自動的に凍結されるわけではなく、「銀行が死亡の事実を把握した時点」で手続きが止まります。
凍結が行われる主なきっかけは、家族からの連絡です。銀行への死亡連絡は、相続手続きを開始する第一歩であると同時に、その後の入出金が全て停止される契機にもなります。急いで連絡する必要はありませんが、口座凍結後の手続きには一定の時間がかかるため、早めに動き始めることが重要です。
口座が凍結されると何ができなくなるか
銀行口座が凍結されると、以下の取引が一切できなくなります。
- ATMやキャッシュカードを使った現金の引き出し
- 窓口での預金の払い戻し
- 口座からの自動引き落とし(公共料金・ローン・保険料など)
- インターネットバンキングでの振込・送金
- 通帳への記帳(金融機関によって対応が異なる)
【注意】凍結後は自動引き落としも止まります。故人名義の口座から公共料金や住宅ローンなどが自動引き落とされている場合、未払いが発生する可能性があります。早急に支払い方法を変更しましょう。
死亡後・口座凍結前の引き出しはどう扱われるか
凍結前の引き出しは違法ではないが…
被相続人が亡くなった後、銀行が凍結する前に預金を引き出すこと自体は、直ちに違法・犯罪となるわけではありません。しかし、この「凍結前の引き出し」は相続人間のトラブルの原因として非常に多く見られます。
なぜなら、被相続人の預金は相続財産の一部であり、相続人全員の「共有財産」となります。一部の相続人が無断で引き出した場合、他の相続人から「不当利得の返還請求」や「不法行為による損害賠償請求」を求められる可能性があります。
凍結前の引き出しがトラブルになりやすいケース
以下のような引き出し行為は、遺産分割でのトラブルに発展しやすく、注意が必要です。
- 相続人の一人が他の相続人に無断で大額を引き出す
- 被相続人の入院中や臨終直前に、家族がATMやキャッシュカードを使って引き出す
- 引き出した事実を隠して遺産分割協議に臨む(後日発覚するとさらに問題が深刻化する)
- 引き出したお金の使途が不明瞭で、葬儀費用等への利用を証明できない
【要注意】引き出した預金を遺産分割協議で開示しなかった場合、「特別受益」として扱われたり、「使い込み」として返還を求められる可能性があります。凍結前に引き出した場合でも、その金額・用途・日時を記録・領収書等で保管しておくことが重要です。
葬儀費用などのために引き出す場合の注意点
葬儀費用や当面の生活費のために緊急で引き出した場合でも、以下の点に気をつけましょう。
- 引き出した金額・日時・用途をメモ・領収書で記録する
- 他の相続人に引き出しの事実と用途を説明・共有する
- 遺産分割協議の際に、引き出し分を相続財産の計算に含める
緊急時に使える「遺産分割前の相続預貯金の仮払制度」
仮払制度とは
2019年7月1日の民法改正により、「遺産分割前の相続預貯金の払戻し制度(仮払制度)」が新設されました。これは、遺産分割協議が完了していない段階でも、一定額の預貯金を相続人が単独で引き出せる制度です。葬儀費用や急ぎの生活費への対応として活用できます。
仮払制度の仕組み・上限額
仮払制度では、各相続人が単独で引き出せる金額は以下のとおりです。
| 項目 | 内容 |
| 引き出せる上限額(1金融機関あたり) | 相続預貯金の残高 × 1/3 × 法定相続分。ただし150万円が上限 |
| 利用できる相続人 | 法定相続人(相続放棄した人は不可) |
| 手続き場所 | 各金融機関の窓口 |
| 必要書類(基本) | 被相続人の除籍謄本・申請者の戸籍謄本・印鑑証明書など(金融機関によって異なる) |
| 他の相続人の同意 | 不要(単独で申請可能) |
例えば、被相続人の預金が600万円あり、相続人が配偶者と子ども2人の計3人の場合、配偶者の法定相続分は1/2なので、配偶者が引き出せる金額の計算式は「600万円 × 1/3 × 1/2 = 100万円」となります(上限150万円以下のため全額引き出し可能)。
家庭裁判所の審判による仮分割・仮処分
上記の仮払制度の上限額では対応しきれない場合(多額の葬儀費用が必要な場合など)、家庭裁判所に「遺産の分割の審判前の保全処分(仮分割の仮処分)」を申し立てることができます。認められれば上限を超えた引き出しが可能になりますが、手続きには時間と費用がかかるため、早めの申立てが必要です。
死亡後に預金を引き出すための正式な相続手続きの流れ
口座凍結後に預金を引き出すための正式な手続きは、以下のステップで進めます。
STEP1:銀行へ死亡の連絡をする
まず、被相続人が取引していた金融機関に対して、名義人が亡くなった旨を連絡します。電話や窓口での連絡が一般的です。連絡した時点で口座が凍結され、相続手続きの案内を受けることができます。被相続人が複数の金融機関と取引していた場合は、それぞれに連絡が必要です。
STEP2:相続人・相続財産を確認する
法定相続人が誰であるかを戸籍謄本(被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍)で確認します。併せて、相続財産(預貯金・不動産・株式・生命保険・債務など)の全体像を調査・把握します。預貯金の口座がどの金融機関にあるかを確認するために、通帳やキャッシュカードを整理しましょう。
STEP3:遺言書の有無を確認する
遺言書がある場合、その内容が相続手続きの基本方針となります。自筆証書遺言は家庭裁判所での「検認」手続きが必要です(法務局保管の場合は不要)。公正証書遺言はそのまま利用できます。遺言書の内容に従って相続人や遺産の分け方が決まるため、早期に確認することが重要です。
STEP4:遺産分割協議を行い協議書を作成する
遺言書がない場合、法定相続人全員で遺産分割協議を行い、誰がどの財産を受け取るかを決めます。全員の合意が成立したら「遺産分割協議書」を作成し、相続人全員が署名・実印を押印します。一人でも欠けた状態での協議は無効となります。
STEP5:銀行へ必要書類を提出し払い戻しを受ける
遺産分割協議書が整ったら、各金融機関に以下の書類を提出し、口座の凍結解除・払い戻し・解約手続きを行います。金融機関によって必要書類が異なるため、事前に各銀行の窓口やウェブサイトで確認しておくことをお勧めします。
| 書類の種類 | 内容・取得先 |
| 被相続人の戸籍謄本(除籍謄本) | 出生〜死亡の連続したもの。本籍地の役所で取得 |
| 相続人全員の戸籍謄本 | 各相続人の住所地の役所で取得 |
| 相続人全員の印鑑証明書 | 住所地の役所で取得(実印が必要) |
| 遺産分割協議書(遺言書がない場合) | 相続人全員の署名・実印の押印が必要 |
| 遺言書(遺言書がある場合) | 原本または公証役場発行の謄本 |
| 銀行所定の相続手続依頼書 | 各金融機関の窓口で入手 |
死亡後の預金引き出しでトラブルになりやすいケースと対処法
①相続分を超えた引き出し
他の相続人に無断で、自分の相続分を超えた額を引き出す行為は、他の相続人から「不当利得返還請求」や「損害賠償請求」を受ける可能性があります。「葬儀費用だから」「立替えただけ」と主張しても、領収書などの証拠がなければ認められないケースが多いです。引き出した金額・用途・日時を必ず記録しておきましょう。
②引き出し行為を隠す(使い込み)
凍結前に多額の預金を引き出した事実を他の相続人に伝えず、遺産分割協議に臨む行為はトラブルの原因となります。銀行の取引明細は相続手続きの中で開示されることが多く、後から発覚すると問題が深刻化します。使い込みが判明した場合、不法行為による損害賠償請求や調停・審判に発展するケースもあります。
③生前にキャッシュカードで引き出す行為
被相続人の入院中や死亡直前に、家族が本人のキャッシュカードや暗証番号を使って預金を引き出す行為は、本人の委任なしに行った場合「不正引き出し」とみなされる可能性があります。特に被相続人が認知症だった場合や、意識不明の状態での引き出しは問題になりやすいです。
④他の相続人が違法に引き出した場合の対処法
他の相続人が無断で被相続人の預金を引き出したことが判明した場合、以下の手順で対応しましょう。
- 銀行に問い合わせて取引明細を取得し、引き出しの事実・金額・日時を確認する
- 相手方に対して引き出し分の開示・返還を求める
- 話し合いで解決できない場合は、家庭裁判所への遺産分割調停を申し立てる
- 悪質な使い込みの場合は、弁護士に相談のうえ不当利得返還請求訴訟も検討する
相続放棄を検討している場合の注意点
相続放棄を検討している場合、死亡後の預金引き出しには特別な注意が必要です。
【重要】単純承認とみなされるリスク相続放棄を検討しているにもかかわらず、被相続人の預金を引き出して自分の生活費や借金の返済に使った場合、「相続財産を処分した」として「単純承認」したものとみなされる可能性があります。単純承認が成立すると、被相続人の借金も含めて相続することになり、相続放棄ができなくなります。
相続放棄を検討している方は、被相続人の預金には一切手をつけず、早急に弁護士または家庭裁判所に相談してください。葬儀費用については、相続財産から支出しても放棄の意思に反しないと判断されるケースもありますが、個別の事情によるため、必ず専門家に確認することが重要です。
よくある質問(FAQ)
Q. 死亡後すぐに銀行口座からお金を引き出しても問題ありませんか?
A. 銀行が凍結する前であれば、引き出し行為自体が直ちに違法となるわけではありません。ただし、引き出した金額は相続財産の一部であり、他の相続人に開示する義務があります。葬儀費用など正当な用途であれば理解を得やすいですが、必ず用途の記録・領収書を保管し、他の相続人に説明できる状態にしておきましょう。
Q. 仮払制度を使えばすぐにお金を引き出せますか?
A. 仮払制度(遺産分割前の相続預貯金の払戻し制度)を利用すれば、遺産分割協議が完了していなくても相続人が単独で一定額を引き出せます。ただし、上限は1金融機関あたり150万円(法定相続分で按分)であり、必要な書類(被相続人の戸籍謄本・申請者の戸籍謄本・印鑑証明書など)を準備する必要があります。金融機関によって対応が異なるため、事前に窓口へ確認してください。
Q. 相続人が遠方にいる場合、郵送で手続きできますか?
A. 多くの金融機関では、書類を郵送でやり取りする相続手続きに対応しています。ただし、一部の金融機関では窓口での来店が必要な場合もあります。また、オンラインバンキングを利用していた口座については、各金融機関のデジタル相続手続きに対応しているケースもあります。利用していた金融機関のウェブサイトや電話で事前に確認することをお勧めします。
Q. 相続手続きにはどのくらいの時間と費用がかかりますか?
A. 相続手続きにかかる時間は、相続人の人数・財産の種類・遺産分割協議の難易度によって異なりますが、一般的に数ヶ月〜1年程度かかることが多いです。費用としては、戸籍謄本の取得費用(1通450円〜)・印鑑証明書の取得費用(1通300円〜)・弁護士や司法書士への報酬(内容により数万円〜数十万円)などが挙げられます。初回相談を無料で受け付けている専門家事務所も多いため、まずはご相談ください。
Q. 被相続人が複数の銀行口座を持っていた場合、どうすればよいですか?
A. 取引のあった金融機関それぞれに対して相続手続きが必要です。口座の数が多い場合、手続きに時間がかかります。通帳・キャッシュカード・銀行からの郵便物などを手がかりに口座を特定しましょう。また、名義人が亡くなって一定期間取引がない「休眠口座」がある場合も、各金融機関に問い合わせることで確認・手続きができます。
死亡後の預金手続きでお困りなら専門家にご相談を
死亡後の銀行口座の手続きは、戸籍謄本の収集・遺産分割協議・各金融機関への対応と、多くの作業が重なります。特に以下のような状況では、早期に弁護士・司法書士・税理士に相談されることをお勧めします。
- 他の相続人が無断で預金を引き出しており、返還を求めたい
- 被相続人に借金があり、相続放棄を検討している
- 相続人間で遺産分割の方針が折り合わず、協議が進まない
- 遺言書の内容に不満があり、遺留分侵害額請求を検討している
- 相続財産が多岐にわたり、手続きが複雑で対応しきれない
当事務所では、遺産相続・相続手続きに関するご相談を初回無料で承っております。相続財産の調査から遺産分割協議書の作成・各金融機関への対応サポートまで、丁寧にご対応いたします。平日のご来所のほか、お電話・メールでもお気軽にお問い合わせください。
まとめ
本記事の要点を整理します。
- 被相続人の銀行口座は、銀行が死亡を知った時点で凍結される
- 凍結前の引き出しは直ちに違法ではないが、他の相続人への開示・記録保管が必須
- 「仮払制度」を使えば遺産分割前でも1金融機関あたり150万円を上限に単独で引き出せる
- 正式な払い戻しには「遺産分割協議書」と各種書類を銀行窓口へ提出する必要がある
- 相続放棄を検討している場合、被相続人の預金を引き出すと「単純承認」とみなされるリスクがある
- 他の相続人による無断引き出し(使い込み)が発覚した場合は、弁護士を通じた法的対応が有効
- 手続きが複雑な場合は弁護士・司法書士・税理士への早期相談が重要
死亡後の預金手続きは、正しい順序と方法で進めることで、家族間のトラブルを防ぎ、スムーズな相続を実現できます。不明な点があれば、まずは専門家にご相談ください。




