コラム
相続した不動産(土地・建物)の評価方法と評価額をめぐる争いが生じた場合の解決方法
相続した不動産の評価方法は不動産鑑定士による鑑定、不動産会社による査定、固定資産評価額、相続税評価額、地価公示価格による方法の5つです。どの評価方法を選ぶかにより評価額は大きく異なりますし、相続人の立場によっても有利か不利かが異なります。不動産の評価方法をめぐる争いが生じた際の解決方法について解説します。
相続で不動産の評価方法をめぐる争いが生じた場合の解決方法
相続では、被相続人の遺産に不動産が含まれている事が少なくありません。不動産は売却する以外には、遺産分割が難しく、相続争いの原因になりやすいのが実情です。
相続における不動産の評価方法は、不動産鑑定士による鑑定、不動産会社による査定、固定資産評価額、相続税評価額、地価公示価格による方法などがありますが、いずれを選択するかにより、評価額が大きく異なりますし、相続人がいずれの立場であるかによっても有利か不利かが異なります。
どの評価方法を選択するのが有利なのか、また、相続で不動産の評価方法をめぐる争いが生じた場合の解決策についても解説します。
相続で不動産の評価方法が問題になる3つの場面
相続で故人の遺産に不動産がある場合は、その評価方法が問題になることがあります。
相続で不動産の評価方法が問題となるのは次の3つの場面です。
- 相続した遺産の相続税を計算するにあたり、不動産の評価を行う必要がある。
- 相続した遺産の遺産分割を行うにあたって、不動産の評価を行う必要がある。
- 不動産の贈与や遺贈につき、遺留分侵害額請求を行うにあたって、不動産の評価を行う必要がある。
不動産の評価方法には様々な方法があります。
相続税を計算する方法については、評価方法のルールがあるので、国税庁のサイトを参考にしたり、税理士に相談するなどして、確定することができます。
一方、遺産分割協議では、不動産の評価方法は、当事者同士が任意の方法を選ぶことができます。
相続税を計算する際の方法でもよいですし、不動産を売る際の実勢価格によることも可能です。
ただ、どの評価方法を選択するかにより、不動産の評価額が大きく異なるため、相続人間でトラブルになることもあります。
また、不動産の贈与や遺贈につき、遺留分侵害額請求を行う場合も、不動産の評価額をどう決めるかは当事者の任意になります。
相続で不動産を分割する方法とは?
被相続人の遺産に不動産がある場合は、遺産分割協議でその不動産を分割しなければなりません。
その際の分割方法は4つの方法があります。
- 共有
- 換価分割
- 現物分割
- 代償分割
それぞれどのような方法なのか確認しましょう。
共有
共有とは、不動産の持分を相続人同士で共有する方法です。
法定相続分で共有すれば、相続人同士で不公平になりません。
一見すると争いが起きにくい分け方のように見えますが、共有は不動産の遺産分割問題を先送りしているだけで、望ましい方法ではありません。
例えば、夫婦のうち、夫が亡くなり、妻と三人の子どもが相続人となったとしましょう。
そして、妻と三人の子どもが一つの不動産をそれぞれの法定相続分で分け合ったとします。
この場合、それぞれの共有持分は次のようになります。
妻 | 3/6 |
三人の子ども | それぞれ1/6 |
この状態で、三人の子どもの一人が亡くなった場合は、1/6の持ち分が孫世代でさらに細分化されてしまうこともあります。
そうなると、不動産の共有者がネズミ算式に増えてしまい、不動産を売却したり解体する時に意見がまとまらず、何もできなくなることもあるわけです。
そのため、遺産の不動産を共有とすることはできるだけ避けるべきです。
換価分割
換価分割とは、被相続人名義の不動産を売却してしまい、売却代金を相続人同士で分け合う方法です。
売却に当たっては、不動産の評価は不動産会社が行うため、相続人同士の争いになることはありません。
後は、売却代金をどのように分けるかだけが問題となりますが、法定相続分で分けるのであれば、大きなトラブルになることは少ないです。
現物分割
現物分割とは、被相続人名義の不動産を法定相続人のうちの一人が相続する方法です。
例えば、被相続人が複数の不動産を所有している場合であれば、相続人一人ひとりがそれぞれ個別の不動産を相続することが可能です。
また、広い土地を所有している場合なら、土地を分筆するなどして分け合って、それぞれの単独所有とすることも可能です。
不動産以外の遺産が多くある場合は、Aさんは不動産、Bさんは銀行預金、Cさんは株式等の証券といった分け方にすることも可能です。
現物分割では、一筆の土地を平等な面積で分割するケースを除き、不動産の評価が必要になります。
例えば、都会と田舎に不動産があるケースでは、都会と田舎の地価は大きく異なるため、面積で単純に分けるわけにはいきません。
代償分割
代償分割とは、相続人のうち、一部の人が不動産を相続する代わりに、その人が他の相続人に不動産の価格に相当する金銭を支払うという方法です。
例えば、夫婦のうち、夫が亡くなり、妻と三人の子どもが相続人となったとしましょう。
この場合の法定相続分は、先ほど見た通り、妻が3/6、三人の子どもがそれぞれ1/6です。
そして、6,000万円の価値のある不動産について遺産分割を行い、妻が単独で相続することになったとします。
他に目ぼしい財産がない場合は、妻のみが遺産を相続できることになり不公平です。
そこで、妻は不動産を単独で取得する代わりに、三人の子どもたちに対して、それぞれ1000万円ずつ、金銭による補償を行います。
代償分割では、代償金をいくらにするのか決めるためにも、不動産の評価が必要になります。
相続における不動産の評価方法
相続において不動産を評価する方法は、次の5つがあります。
- 不動産鑑定士による鑑定
- 不動産会社(宅地建物取引業者)による査定
- 固定資産評価額による方法
- 相続税評価額による方法
- 地価公示価格による方法
一つ一つ確認しましょう。
不動産鑑定士による鑑定
不動産鑑定士による鑑定は、不動産の適正価格を判定するためのものです。
相続税納税のために不動産の適正価格を判定する必要がある場合や、裁判や調停などで争われている不動産の適正価格を判定する必要がある場合に不動産鑑定士に依頼して鑑定してもらいます。
もっとも厳密な判定方法なので、遺産をめぐる相続争いが裁判や調停に進みそうな場合は、不動産鑑定士に鑑定を依頼して、適正価格を確認しておくのもよいでしょう。
なお、不動産鑑定士に鑑定を依頼する際は、鑑定費用がかかるので、その鑑定費用の負担方法についても話し合いが必要です。
不動産会社(宅地建物取引業者)による査定
不動産会社(宅地建物取引業者)による査定とは、不動産会社が不動産の取引を行う際の取引価格を査定してもらうものです。実勢価格や時価と呼ばれることもあります。
不動産会社による査定は、不動産を売却することが前提である場合に適切な方法です。
一般的には、不動産会社による査定価格が不動産の評価額として最も高額になります。
固定資産評価額による方法
固定資産評価額とは、毎年、市区町村から送られてくる固定資産税の通知書に記載されている「固定資産税評価額(課税標準額)」のことです。
固定資産税は、固定資産税評価額に税率を掛けることで算出しています。
この固定資産税評価額をそのまま、相続における不動産の評価額として用いることも可能です。
固定資産税評価額は、市場での取引価格に近い公示価格の70%程度の価格になっているのが一般的です。
そのため市場価格よりも低額に評価することになります。
相続税評価額による方法
相続税の金額は、相続税評価額に税率を掛けることにより算出します。
不動産の相続税評価額は、土地と建物とで異なります。
建物については、固定資産評価額をそのまま用います。
土地は固定資産評価額ではなく別途計算が必要です。具体的な計算方法は、路線価方式と倍率方式の2つの方法があります。
一般的には、相続税評価額は、市場での取引価格に近い公示価格の80%程度の価格になります。
そのため、土地については固定資産評価額よりも少し高く評価されます。
地価公示価格による方法
国土交通省は、適正な地価を算出するための基準とするために、毎年1月1日時点の標準地の価格を公示しています。毎年3月に発表されるこの価格を地価公示価格と言います。
一般的には、市場で取引される際の実勢価格に近い価格です。
ただ、あくまでも基準の価格で、実際の取引価格は、様々な要素により上下します。
相続における不動産の評価額として地価公示価格を用いた場合は、不動産会社による査定価格に近い価格になります。
相続における不動産の評価方法はどれを選択すべきなのか?
相続税の納税以外では、相続における不動産の評価方法は、上記で紹介した5つの方法のどれを選択しても構いません。
相続人同士で話し合い、納得した方法で行うことができます。
どの評価方法を選択するのが有利なのかは、当事者の立場により異なります。
不動産を相続する側
現物分割や代償分割で不動産を相続することになる場合は、不動産の価値を低く評価してもらう方が有利になります。
不動産の価値が低ければ、不動産以外の遺産も相続できる可能性がありますし、支払うべき代償金の価額を低く抑えられるからです。
不動産の評価方法としては、固定資産評価額を選択するのが最も有利な方法になります。
不動産を相続しない側
現物分割や代償分割で不動産を相続しないことになる場合は、不動産の価値を高く評価してもらう方が有利になります。
不動産の価値が高ければ、不動産を相続した人は、他の遺産を相続できなくなるかもしれません。そうすれば、不動産を相続しない人は、不動産以外の遺産を多く受け取れます。
また、不動産を相続した人に代償金を支払わせる場合も、不動産の価値が高いほど、代償金の額が高くなります。
不動産の評価方法としては、不動産会社による査定価格が最も高額になる可能性が高いです。不動産を売却しないケースでは、地価公示価格によることも考えられます。
相続における不動産の評価方法で争いになった場合は?
相続における不動産の評価方法は、5つのいずれの方法を採用してもよいことになっているため、不動産の遺産分割協議では大きな争いになることがあります。
不動産の評価方法をめぐって争いが起きた場合、どのように解決したらよいのでしょうか?
当事者同士で話し合う
不動産の評価方法が決まらなければ、不動産を含む遺産の遺産分割を進めることができません。
まずは、当事者同士で納得するまで話し合いましょう。
不動産鑑定士に鑑定を依頼する
相続人同士の話し合いだけで納得できる価格が決まらない場合は、不動産鑑定士に不動産の鑑定を依頼するのも一つの方法です。
不動産鑑定士による鑑定なら、最も客観的な価格を示してもらえます。
遺産分割調停を申し立てる
相続人同士で話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることもできます。
遺産分割調停では、不動産の遺産分割はもちろん、不動産の評価方法についても話し合いを行うことができます。
遺産分割調停でも、不動産の評価方法について、相続人がそれぞれ自分が採用したい鑑定方法を主張することができます。
調停委員がそれぞれの言い分を聞き取ったうえで、最適な鑑定方法を提案してくれることもありますので、その提案に納得できるようであれば、その鑑定方法に決めることもできます。
話し合いがまとまらない場合は、遺産分割調停は不成立となります。
この場合、裁判官が審判という形で結論を出しますが、この際は、不動産鑑定士による鑑定評価が行われるのが一般的です。
相続における不動産の評価方法でトラブルになった時は、まず弁護士にご相談を
相続における不動産の評価方法で相続人間で話し合いがまとまらないなどのトラブルになっているときは、まず、弁護士にご相談ください。
5つの不動産の評価方法のうち、どれを選ぶのが有利なのかは、相続人の立場によって異なります。
相手の主張に妥協したために、思いがけず、大きな不利益を被ってしまうこともあります。
また、不動産鑑定を依頼するにしても鑑定費用が数十万円程度かかるため、その費用負担をどうするのかという新たな問題も生じます。
不動産を含めた相続に関してトラブルになっているときは、早めに弁護士に相談するのが最も迅速な解決方法です。