コラム
遺留分を請求されたら?支払い方法・減額交渉・期限を弁護士が解説
「父が亡くなり遺言書の通りに相続したところ、兄弟から遺留分侵害額の請求書が届いた」「生前贈与を受けていたが、相続発生後に他の相続人から遺留分の請求をされた」——遺留分の請求を突然受けて、どう対応すればいいかわからず困っている方が多くいます。
遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)は法律上認められた権利ですが、請求された側にも正当に対抗できる手段があります。請求額をそのまま受け入れる必要はなく、財産の評価方法・特別受益・寄与分などの観点から減額交渉できるケースも少なくありません。
本記事では、遺留分とは何か・請求が来たときの対応の流れ・支払い方法・減額交渉のポイント・期限まで、奈良市の高の原法律事務所の弁護士が詳しく解説します。
① 遺留分とは——法律上保障された最低限の相続分
遺留分とは、被相続人(亡くなった方)の兄弟姉妹以外の法定相続人に対して、民法上保障されている最低限の相続分のことです。遺言書でどのように財産を分けると書かれていても、遺留分を下回る取り分しか受けられなかった相続人は、遺留分侵害額の請求をすることができます。
遺留分の割合
ポイント:「遺留分侵害額請求」は、遺産を現物で取り戻す請求ではなく、侵害された遺留分相当額の金銭を支払うよう求める請求です(2019年民法改正)。
請求を受けた側は、現物の財産を返す必要はなく、金銭で支払えばよいのが原則です。
② 請求が来たら——最初にすべき3つのこと
①まず請求内容と期限を確認する
遺留分侵害額の請求は、内容証明郵便で届くことが多いです。請求書が届いたら、まず「いつ・誰から・いくら請求されているか」を確認します。同時に、後述する消滅時効(原則として遺留分侵害を知ってから1年)が相手側に迫っているかどうかも確認することが重要です。
②請求額の計算根拠を検討する
請求書に記載された金額がそのまま正しいとは限りません。遺留分侵害額の計算は、相続財産の評価方法・特別受益(生前贈与)の有無・寄与分など複数の要素が絡んでいます。相手の計算に誤りがある・考慮されていない事情がある場合には、減額の余地があります。
③すぐに弁護士に相談する
請求された側も法的なサポートを受ける権利があります。相手が弁護士をつけて請求してきた場合は特に、こちらも早期に弁護士に相談することをお勧めします。感情的な交渉を避けつつ、法的に正当な対応策を取ることができます。
③ 遺留分侵害額の計算方法——どう算定されるか
遺留分侵害額は「本来受け取れるはずだった遺留分の額」から「実際に受け取った相続分」を差し引いた金額です。計算の基礎となる「遺留分算定の基礎財産」は以下のように決まります。
- 相続開始時の財産の価額
- + 生前贈与(原則として相続開始前10年以内の相続人への贈与・特別受益に当たる贈与は期間制限なし)
- - 相続債務の全額
この基礎財産に遺留分の割合を乗じて、各相続人の遺留分額が決まります。そこから実際に受け取った財産額・特別受益として考慮される贈与額を差し引いた残額が「遺留分侵害額」となります。
不動産の評価が争点になりやすい
遺留分の計算において、不動産の評価額は大きな争点になります。相手が高い評価額を用いていれば、適正な時価鑑定を求めることで請求額を下げられる可能性があります。また、被相続人の事業を維持するために不動産を受け取ったケースでは、評価の減額(中小企業の事業承継における特例など)が認められることもあります。
④ 請求額を減額できるケース
遺留分侵害額の請求に対して、以下のような事情がある場合は請求額の減額交渉ができる可能性があります。
ケース①:請求者が特別受益を受けていた
遺留分を請求してきた相続人が、生前に被相続人から多額の贈与(特別受益)を受けていた場合、その分を遺留分の計算に組み込む(持ち戻し)ことで、遺留分侵害額を減らせることがあります。「あちらも親から留学費用・住宅購入資金などをもらっていた」という事情がある場合は、必ず弁護士に伝えてください。
ケース②:不動産の評価額が実態と乖離している
相手が路線価や固定資産税評価額を用いて高めに評価している場合、実勢価格(時価)での評価を求めることで財産総額が変わり、遺留分侵害額が減ることがあります。不動産鑑定士による鑑定を入れることも有効です。
ケース③:遺留分を放棄していた
請求者が相続開始前に家庭裁判所で「遺留分の放棄」の許可を得ていた場合は、請求自体が認められません。相続開始前の遺留分放棄は家庭裁判所の許可が必要で、自動的には効力がないため確認が必要です。
ケース④:請求の時効が成立している
遺留分侵害額請求権は「遺留分を侵害されたことを知ったときから1年」または「相続開始から10年」で消滅時効にかかります。相手がこの期限を過ぎてから請求してきた場合は、時効を援用することで支払い義務を免れることができます。
⑤ 支払い方法——一括・分割・現物
原則は金銭での一括払い
2019年の民法改正により、遺留分侵害額は「金銭」で支払う義務があると明確化されました。現物(不動産など)で返す必要はなく、金銭で支払えば義務を果たしたことになります。
一括支払いが困難な場合は分割払いの交渉を
遺留分侵害額が高額で一括払いが難しい場合、相手と交渉して分割払いにしてもらうことが可能です。相手が分割払いに合意すれば、期間・月額などの条件を書面で取り決め、合意書を作成します。
裁判所に支払い猶予を求める
支払いが困難な場合、裁判所に「遺留分侵害額の支払いについての期限の許与」を申し立てることができます(民法1047条5項)。裁判所が認めれば、一定期間の支払い猶予が認められます。受遺者・受贈者が財産(特に不動産)の売却資金を準備する期間として活用できます。
⑥ 遺留分に関するよくある質問
Q. 遺留分の請求に応じないとどうなりますか?
A. 相手が弁護士に依頼して調停・訴訟に進む可能性があります。訴訟になれば判決で支払いが命じられ、強制執行(財産の差押え)のリスクが生じます。請求に一切応じないことは得策ではありません。内容に異議がある場合は弁護士を通じて反論・交渉することが現実的な対応です。
Q. 遺留分を請求された財産が不動産で、売却できない場合はどうなりますか?
A. 遺留分侵害額は金銭で支払うのが原則のため、不動産を保有しながら金銭を別途準備することになります。不動産を売却せずに保有したい場合は、他の預貯金・資産から支払う方法を検討します。資金がない場合は銀行からの融資・分割払いの合意・裁判所への支払い猶予申立てなどの手段があります。
Q. 相手の請求額が明らかに高すぎると感じます。どうすればいいですか?
A. 相手の計算根拠を確認し、財産評価・特別受益の算入・負債の控除などの点で誤りや見落としがないかを検討する必要があります。高すぎると感じた場合は、弁護士に計算の検証を依頼したうえで、根拠を示した反論書を作成して交渉することが有効です。
Q. 遺留分の請求にはいつまでに回答しなければなりませんか?
A. 相手からの請求に対して法律上の回答期限は定められていません。ただし、相手側の時効(知ってから1年)が迫っている場合は、相手が訴訟に踏み切るスピードが上がることがあります。また、話し合いを長引かせると関係が悪化するリスクもあるため、弁護士に相談しながら早めに方針を決めることをお勧めします。
まとめ
遺留分の請求を受けたとき、最初は戸惑うかもしれませんが、適切に対応することで不当な支払いを防ぐことができます。本記事の要点を振り返ります。
- 遺留分は兄弟姉妹以外の法定相続人に認められる最低限の相続分——遺言書があっても請求できる
- 2019年改正後は現物返還ではなく金銭での支払い義務——不動産を返す必要はない
- 請求された側も減額交渉できる——特別受益・不動産評価・時効の援用などを検討する
- 一括払いが難しい場合は分割払いの交渉や裁判所への支払い猶予申立てが可能
- 請求を無視すると調停・訴訟・強制執行へ発展するリスクがある
- 相手が弁護士をつけて請求してきた場合は早急にこちらも弁護士に相談する
「請求額が高すぎて納得できない」「不動産しかなくて現金が払えない」「本当に払わなければならないのか確認したい」——遺留分のトラブルは、専門的な対応で解決策が見えることがあります。まずはご相談ください。




