コラム
相続における兄弟の取り分はどう決まる?法定相続分・遺留分・特別受益・寄与分まで弁護士がわかりやすく解説
親が亡くなり、兄弟姉妹で遺産を分けることになったとき、「自分の取り分はどのくらいになるのだろう」「兄が全部もらうと言っているが、それは正しいのか」といった疑問を抱える方は少なくありません。
相続における「取り分」は、法律でひとまずの基準が定められていますが、実際には遺言書の有無・生前の贈与・親の介護への貢献など、さまざまな要素によって変わってきます。「法律上の取り分」と「実際にもらえる金額」が一致しないケースも多く、それがきっかけで兄弟間の関係が壊れてしまうことも珍しくありません。
本記事では、相続における兄弟の取り分の基本ルール・変動する要素・話し合いがまとまらないときの対応策まで、奈良市で相続案件を多く手がける高の原法律事務所の弁護士がわかりやすくお伝えします。
① まず知っておくべき「法定相続分」の基本
遺産の分け方について遺言書がない場合、民法に定められた「法定相続分」がひとまずの基準となります。法定相続分とは、相続人それぞれが受け取るべき遺産の割合を法律で定めたものです。
ただし、法定相続分は「最低限この割合で分けなさい」という強制ではなく、「遺産分割協議で特段の取り決めがない場合の目安」という位置づけです。相続人全員が合意すれば、法定相続分と異なる割合で分けることも自由に可能です。
兄弟姉妹が関係する主な相続パターン
| 相続人の構成 | 各自の法定相続分 | 具体例(遺産1,200万円) |
| 配偶者と子ども2人 | 配偶者1/2・子ども各1/4 | 配偶者600万円・子ども各300万円 |
| 配偶者と子ども3人 | 配偶者1/2・子ども各1/6 | 配偶者600万円・子ども各200万円 |
| 子どもだけ(配偶者なし)で2人 | 各1/2 | 各600万円 |
| 子どもだけ(配偶者なし)で3人 | 各1/3 | 各400万円 |
| 配偶者と父母(子なし) | 配偶者2/3・父母各1/6 | 配偶者800万円・父母各200万円 |
ポイント:兄弟姉妹が相続人となるのは、亡くなった方に子も親もいない場合に限られます(第三順位)。この場合、兄弟姉妹の法定相続分は全体の1/4(配偶者がいれば)または全員で均等分(配偶者がいなければ)となります。なお、異母・異父兄弟は同母父兄弟の1/2の相続分となる点も押さえておきましょう。
② 遺言書がある場合——取り分はどう変わる?
亡くなった方が遺言書を残していた場合、原則として遺言書の内容が法定相続分よりも優先されます。たとえば「長男に全財産を与える」という遺言書があれば、その内容に従って遺産が分けられます。
ただし、遺言書があるからといって、他の相続人が何も受け取れないわけではありません。「遺留分」という最低限の取り分が法律で守られているためです。
遺留分とは
遺留分とは、配偶者・子ども・直系尊属(親)に対して法律が保障する最低限の取り分のことです。遺言書の内容がこの遺留分を侵害している場合、侵害された相続人は「遺留分侵害額請求」という手続きによって、侵害した相手に金銭の支払いを求めることができます。
| 相続人 | 遺留分の割合(遺産全体に対して) |
| 子どもだけ(配偶者なし) | 遺産全体の1/2(複数いれば人数で均等割り) |
| 配偶者と子ども | 配偶者1/4・子ども全体で1/4(人数で均等割り) |
| 配偶者のみ(子・親なし) | 遺産全体の1/2 |
| 直系尊属のみ(子なし) | 遺産全体の1/3 |
| 兄弟姉妹 | 遺留分なし(請求不可) |
注意:遺留分侵害額請求には期限があります。「遺留分を侵害する遺言書の存在と、相続の開始を知った日から1年以内」に請求しなければ、権利が消滅します。また、相続開始から10年が経過した場合も同様です。気づいたら早めに行動することが重要です。
③ 取り分に影響する2つの重要な要素
法定相続分はあくまで「出発点」に過ぎません。実際の遺産分割においては、次の2つの要素が取り分に大きく影響することがあります。
特別受益——生前に多くもらっている相続人がいる場合
相続人のひとりが、亡くなった方から生前に特別な財産的利益を受け取っていた場合、その利益を相続分の前渡しとして計算に含めることができます。これを「特別受益」といいます。
具体的には、住宅購入のための贈与・開業資金の援助・学費の肩代わり(他の兄弟と著しく差がある場合)などが該当します。特別受益がある場合は、その金額を遺産に「持ち戻し」て計算することで、相続人間の公平が図られます。
具体例:遺産が3,000万円。長男が生前に住宅資金として1,000万円の贈与を受けていた場合。
みなし相続財産:3,000万円+1,000万円(持ち戻し)=4,000万円
子ども2人(長男・次男)の法定相続分:各1/2 → 各2,000万円
長男の実際の取り分:2,000万円-1,000万円(特別受益)=1,000万円
次男の実際の取り分:2,000万円
このように、生前の贈与がある場合は「遺産の取り分が見かけより少なくなる」ことがあります。
ただし、被相続人(亡くなった方)が「この贈与は相続分に含めなくてよい」という意思を示していた場合(持ち戻し免除の意思表示)や、婚姻・養子縁組のための贈与でかつ10年以上前に行われた場合などは、持ち戻しの対象外となります。
寄与分——親の介護や家業を手伝ってきた相続人がいる場合
反対に、相続人のひとりが亡くなった方の財産の維持・増加に特別な貢献をしていた場合、その貢献分を「寄与分」として他の相続人より多く受け取れる仕組みがあります。
主に認められるケースとして、長期にわたる療養看護(専業で介護に当たっていた場合など)・家業への継続的な無償労働・財産管理への積極的な関与などが挙げられます。
ただし、「親と同居して面倒を見ていた」という事実だけでは寄与分として認められるケースは多くなく、「特別な貢献によって被相続人の財産が維持・増加した」という因果関係の立証が求められます。感情的な主張だけでは難しく、記録・領収書・ヘルパーの利用状況などの客観的な証拠が重要になります。
④ 兄弟間の相続でトラブルになりやすいパターン
相続をめぐる兄弟間のトラブルには、いくつかの典型的なパターンがあります。自分の状況に当てはまるものがないか、確認してみてください。
パターン①:長男(同居の兄弟)が財産を独り占めしようとする
親と同居していた兄弟が「自分が親の面倒を全部見た」「家は自分がもらう権利がある」と主張し、他の兄弟の取り分を認めようとしないケースです。同居の事実があっても、それが直ちに法定相続分を超える権利を生むわけではありません。寄与分として認められるには前述の通り客観的な立証が必要であり、主観的な「貢献感」とは別物です。
パターン②:特定の兄弟だけが生前に多額の贈与を受けている
長男の家の購入資金を親が全額負担したが、次男は何ももらっていない——こうした不公平感から相続時に対立が起きるケースです。この場合は前述の特別受益として計算に含めることを主張できますが、証拠(通帳の記録・登記簿謄本など)を集めておくことが重要です。
パターン③:遺言書の内容に著しく不公平がある
「長男に全部」「妻に全部」という遺言書が出てきて、自分が相続分をもらえないケースです。この場合は遺留分侵害額請求が有効な手段となりますが、遺留分の計算には生前贈与も含める必要があり、正確な計算には法律的な知識が必要です。
パターン④:相続財産の全容が不透明
「親の預金がいくらあったのかわからない」「兄が通帳を管理していて見せてもらえない」という状況も多く見られます。このような場合、弁護士に依頼すれば、金融機関に対する残高照会・取引履歴の調査といった財産調査を行うことができます。相手が情報を隠している可能性がある場合ほど、早期の専門家への相談が重要です。
⑤ 話し合いがまとまらないときの法的な解決手段
兄弟間で話し合っても遺産分割がまとまらない場合、法律には段階的な解決手段が用意されています。
| 手続き | 内容と特徴 |
| 遺産分割協議 | 相続人全員で話し合って遺産の分け方を決める。全員の合意が必要。合意できれば最も早く解決できる。 |
| 遺産分割調停 | 家庭裁判所に申し立て、調停委員を交えて話し合う。合意に達すれば調停調書が作成される。 |
| 遺産分割審判 | 調停が不成立の場合、家庭裁判所が遺産の分け方を決定する。相続人の主張・証拠をもとに裁判所が判断。 |
| 遺留分侵害額請求 | 遺言書によって遺留分を侵害された場合に行う請求。話し合い・訴訟のどちらでも対応可能。 |
調停や審判に進む場合、自分だけで対応するのは非常に困難です。相手方が弁護士をつけている場合は特に、こちらも早めに弁護士に相談・依頼することが有利な解決につながります。
また、弁護士が代理人として入ることで、当事者同士の直接のやり取りをなくし、感情的な対立がエスカレートするのを防ぐ効果もあります。相続問題では感情が入り込みやすいからこそ、間に専門家が入ることの意味が大きいのです。
⑥ まとめ
相続における兄弟の取り分は、法定相続分を出発点として、遺言書・特別受益・寄与分などさまざまな要素によって変動します。最後に要点を整理します。
- 法定相続分は「目安」であって強制ではない。相続人全員の合意があれば自由に変更できる。
- 遺言書があれば原則として遺言書が優先されるが、遺留分の侵害があれば侵害額請求が可能(ただし兄弟姉妹に遺留分はない)。
- 生前に特別な贈与を受けた相続人がいる場合は「特別受益」として計算に含めることができる。
- 親の介護や家業への貢献がある場合は「寄与分」として多く受け取れる可能性があるが、立証が必要。
- 財産の隠蔽・不透明な管理が疑われる場合は、弁護士に依頼して財産調査から始めることが有効。
- 話し合いがまとまらない場合は、調停→審判という法的手続きに進める。弁護士への早期相談が解決を早める。
「自分の取り分が正当なのかどうかわからない」「兄弟と話し合っても一向に進まない」という状況は、放置しても解決しません。相続問題は時間が経つほど証拠が失われ、解決が難しくなる傾向があります。まずは一度、弁護士にご相談ください。




