コラム
父親が亡くなったけれど遺言書がない!どうすれば?【弁護士に聞く】
両親が亡くなるとお通夜や葬式、役所への届出や火葬場の手配といったさまざまな手続きが発生します。
残された子どもたちは儀礼や事務的な手続きに翻弄されてしまいます。
さらに待ち受けている難題が相続です。
今回は遺言書を残さずに親が死亡した場合を想定して、坪田先生に遺族がやるべきことについて伺いました。
遺言書がない!遺産相続の話を始める前にやるべきことは?
——「父親が亡くなって、遺言書がない」という状態で、まずやるべきことはなんでしょうか。
坪田弁護士:遺言書がない場合には、相続人をすべて集めて遺産分割協議を行う必要があります。
しかしこの話し合いを始める前にやるべきことがあります。
それが、相続人を特定する作業です。
——相続人の特定はどのように進めればよいのでしょうか。
坪田弁護士:亡くなった父親が、生まれてから亡くなるまでの戸籍を取得します。
そうすると「お父さんに隠し子がいた」「前の奧さんとの間に子どもがいた」といった情報がわかることがあります。
現住所から亡くなった父親の戸籍がある役所が近ければ直接出向いてもいいですし、遠ければ郵送で手配することになります。
郵送で手配する場合には、必要な手数料を電話で確認して、小為替を郵便局で購入して、戸籍の申請書と一緒に送付しましょう。
——相続人の特定が終わったら次はどのような手続きが必要ですか?
坪田弁護士:亡くなった父親の相続財産の特定も必須です。
銀行や証券会社を回って、どれだけ相続財産があるかを確認します。
金融機関に残高証明という書類を依頼すれば発行してもらえますので、それを確認しましょう。
亡くなった父親が不動産を所有している場合には、不動産の登記簿謄本も取得しておきましょう。
——金融機関で残高証明を取得するために必要な書類はありますか?
坪田弁護士:いずれの金融機関でも、お亡くなりになった方の戸籍謄本と、残高証明書を取得しようとしている相続人の戸籍謄本が必要です。
相続人の戸籍謄本については、お亡くなりになった方との繋がりがわかるものが求められます。
お二人の関係性を証明することが必要です。
本籍地が遠方の場合には日数がかかることもあります。
また原戸籍という縦書きの戸籍など複数の戸籍が必要になることもありますね。
ご自身の戸籍謄本を取得する場合も先ほどと同様に小為替が必要です。
準備完了!いざ遺産分割協議へ!注意点とは?揉めるポイントは?
——遺産分割協議について教えてください。相続人全員が必ず集まる必要がありますか?
坪田弁護士:はい。一人でも欠けてしまうと遺産分割協議は成立しませんので、全員に参加していただく必要があります。
——遺産分割協議の開催方法に決まりはありますか?Zoomなどのオンラインで開催しても問題はありませんか?
坪田弁護士:話し合いができれば方法は問いません。当然Zoomでも大丈夫ですよ。
——遺産分割協議は揉めるイメージがあります。あらかじめ録音や録画をしておくべきですか?
坪田弁護士:揉めてしまうケースもあります。
ですが揉めているケースであっても誰がどういった等を録音していてもどうしようもないところではありますので、録音や録画はしなくてもよいのではないでしょうか。
——遺産分割協議で揉めやすいポイントについて教えてください。
坪田弁護士:亡くなられた方が、生前に特定の相続人にお金を渡していたパターンは揉めやすいですね。
土地を買うお金など、大きなお金を渡していると「あなたは先にもらっていたでしょう」と揉めやすくなります。
こういうケースでは、現時点で残っている財産を平等に分割するという風にはなりにくいです。
また被相続人の口座から、特定の相続人がお金を出金してしまっていることも時々あります。そういうときも揉めやすいですね。
——「特定の相続人が被相続人の生前にお金を受け取っていた」というケースはどのように解決するのですか?
坪田弁護士:まずは誰がどれだけ生前にお金をもらっていたかを確認します。
そしてその財産をみなし相続財産として、相続財産の合計額に加えるんですね。
そして決定した相続割合で分割するという風に解決します。
——お金を受け取ったのに、受け取っていないと相続人が主張している場合はどうすればよいですか?
坪田弁護士:相続人が、被相続人から生前にお金を受け取ることを法律用語で「特別受益」といいます。
特別受益がある場合には、「それは特別受益だよ」と主張している人が証拠を揃えて立証する必要があります。
振込の書類等が残っていればよいですが、そうでなければ立証が難しいこともありますね。
——遺産分割協議で揉めないコツはありますか?
坪田弁護士:揉めそうな事実があるときには、本人同士で話すとどうしても感情論が先になってしまいます。
なかなか話がうまくいかないときは、弁護士を選任して弁護士同士でお話をするとよいでしょう。
あとは調停や裁判でお話をするのもよいかなと思います。
——遺産分割協議に期限はありますか?
坪田弁護士:遺産分割協議自体には特に期限はありません。
しかし相続税の申告には期限がありまして、被相続人の相続発生から10ヶ月以内に行わなければなりません。
ですので10ヶ月を目処に遺産分割協議をまとめるのがベストかと思います。
ただ時間的に難しい場合もありますので、「未分割」ということで申告を行ってそれから話し合いを継続することになります。
——遺産分割協議中にお金が必要になったときはどうすればよいですか?
坪田弁護士:その対象となる財産のみ遺産分割協議を成立させて、そこの部分だけ先に進めるという方法があります。
葬儀費用ですとかそういったお金は特定の銀行の口座だけ先行させて相続手続きをしてもよいでしょう。
——相続人の中に、認知症の方がいる場合はどうしたらよいでしょうか。
坪田弁護士:認知症の場合は、遺産分割協議を行う意思能力が欠けているおそれもあります。
意思能力がばい場合には家庭裁判所で成年後見人を選任してもらい、その成年後見人が遺産分割協議に参加する形になりますね遺産分割協議で揉めている場合は、相続人同士に利害関係が生じますので、相続人が他の相続人の成年後見人になることはできません。
遺産分割協議が終了!どうすれば?
—遺産分割協議が終了したら何をすべきですか?
坪田弁護士:遺産分割協議書を作成します。
遺産分割協議書は「誰が何を取得するのか」という点を明確に書く必要があります。
とくに不動産は法務局で取得した不動産謄本の情報をしっかりそのまま間違いがないように記載しましょう。
そして相続人全員が署名と押印をします。
使用するのは実印です。
全員の印鑑証明書が必要ですね。
それで遺産分割協議書が完成です。
——遺産分割協議書はどこかに提出する必要がありますか?
坪田弁護士:遺産分割協議書は、どのような遺産分割をして、誰が財産をもらうことになったかを示す重要な証拠です。
したがって不動産の相続登記をするときや銀行預金の払い戻しをして分割するといった手続きのときには、必ず必要になります。
——遺産分割協議書を作成した後に、内容を変更することはできますか?
坪田弁護士:話し合いが終わっても、遺産分割協議書を作成する前であれば、相続内容を変更することは可能です。
しかし、基本的には書類を作ればその内容で遺産分割協議が確定したことになります。
銀行等の手続きもその書類で進めることができますので、覆すことは難しいでしょう。
ただし遺産分割協議自体に錯誤があったり、騙されたり、脅迫されたりといった場合には例外的に取消しや無効の余地があるかもしれません。
——遺産分割協議書を作成した後に、新たな相続財産が見つかった場合はどうなりますか?
坪田弁護士:相続財産の把握に漏れがあった場合は、それが発見されてから該当財産に関する遺産分割協議を行わなければなりません。
その上で、遺産分割協議書を作ります。
遺産分割協議で揉めたくない方、揉めている方はお気軽にご相談を!
——遺言書が残されていない状態で遺産分割協議に取りかかろうとしている方、遺産分割協議中で困っている方にメッセージをお願いします!
坪田弁護士:亡くなった方の遺言書がないとなると、亡くなった方の意思がわかりません。
人によって色々な思いがあります。
「あの人は生前に財産を受け取っていた」「私は少ししかもらっていない」といった思いがあるでしょう。
「あの人は被相続人の財産を勝手に引き出してしまった」といったこともあるかと思います。
相続には本当にさまざまなトラブルや思いがあります。
相続によって親戚同士が感情的にいがみ合って疎遠になってしまうことも珍しくありません。
そうなってしまうと親戚同士での話し合いは、なかなか進みませんので早い段階で弁護士にご相談ください。
早い段階で感情的なストレスからは解放されたほうがよいかなと思います。
——坪田先生の事務所でも遺産分割協議の相談について対応していますか?
坪田弁護士:私の事務所でも多数の相続に関するご相談をいただいております。
多種多様な問題を解決しておりますので、悩んでおられる方はぜひご相談いただければと思います。
どういった解決策があるのかを個別具体的に示していきます。